最初に相続全般について取り上げます。
「遺言」と「相続登記」については,右の項目からお入りください。
人の死亡により,死者と一定の身分関係にある者が,死者に帰属していた財産上の権利や義務をそのまま承継することです。
承継される人(死者)を被相続人,承継する人を相続人といいます。
なお,一定期間,生死不明の状態が続いた場合などには,一定の者の請求により,家庭裁判所で失踪宣告がなされます。失踪宣告を受けた者は“死亡したものとみなされる”ため(民法31条),この場合にも相続が開始します。
相続は,死亡によって開始します。つまり,被相続人が死亡すると同時に,相続人は,被相続人に帰属していた財産法上の権利や義務を承継します。
相続人が被相続人の死亡の事実を知ったかどうか,相続財産の存在を知っているかどうかは関係ありません。
相続人は民法で定められています。
被相続人が,相続人を指定することはできません。
相続人以外の人に自分が死亡することによって財産を与えたいときは,遺言書を作成して,“遺贈”をしておく必要があります。
ただし,民法で相続人と定められていても,相続人となるためには欠格事由(※1)に該当せず,廃除(※2)されていないことが必要です。
※1欠格事由とは,民法891条が規定していますが,故意に被相続人を殺害あるいは殺
害しようとして刑に処せられた場合や,詐欺または強迫によって被相続人に相続に関
する遺言をさせた場合などは,法律上当然に相続人となる資格が奪われてしまいます
(民法891条)。
※2兄弟以外の相続人となるべき者(推定相続人)が,被相続人に対して虐待を加えた場
合など,被相続人は,その推定相続人に自分の財産を承継させたくないときは,“推
定相続人の廃除”を家庭裁判所に請求することができ,その推定相続人は家庭裁判所
の審判によって“廃除”されたときは,相続人となることができません(民法892
条)。
相続欠格との違いは,相続欠格の場合には民法が定める一定の事由に該当すれば法律
上当然に相続人となる資格が奪われるのに対し,廃除の場合には,被相続人が家庭裁
判所に請求し,家庭裁判所の審判によるという点です。つまり,廃除の場合には,推
定相続人が被相続人に虐待を加えたが,被相続人が廃除の請求をしなければ相続人と
なることができるということです。
相続人とその順位はつぎのとおりです。
先順位の相続人が一人でもいるときは,後順位の者は相続人となりません。
たとえば,被相続人に相続人である子供が一人でもいれば,被相続人の父母は相続人ではありません。
配偶者は,常に相続人となります。
第1順位 子
子は,実子であるか,養子であるかを問わず相続人となります。
また,婚姻関係にある男女間に生まれた子(嫡出である子)であるか,婚姻関係にない男女間で生まれた子(嫡出でない子)であるかを問わず,相続人となります。
ただし,この場合には相続分が異なり,嫡出でない子の相続分は嫡出である子の2分の1です。
第2順位 直系尊属
父母のいずれか一方が相続人となるときは,祖父母の代の者は相続人となりません。
実父母か,養父母かを問わず相続人となります。
したがって,養子が死亡し,その養子に子がなく,実父母と養父母がいるときはすべての者が相続人となります。
第3順位 兄弟姉妹
父母の双方が同じ兄弟姉妹か,父母の一方だけが同じ兄弟姉妹かを問いません。
ただし,父母の双方が同じ兄弟と,一方だけが同じ兄弟では相続分が異なります。
たとえば,Aさんが死亡したが,Aさんに,すでに死亡した配偶者Bさんと間の子XとY,婚姻関係にないCさんとの間の子Zがいる場合です。Zの相続分は,X・Yの相続分の2分の1です。
相続分は,「遺言による指定」か,「民法の規定」のいずれかで決まります。
この2つのうち,「遺言による指定」が優先します。
① 遺言による指定
被相続人は,遺言で相続分を定め,またはこれを定めることを第三者に委託することができます。この指定または指定の委託は,必ず遺言によらなければなりません。
② 民法の規定
遺言による相続分の指定がない場合に備えて,民法は次のように相続分を規定しています。これを法定相続分といいます。
ア 配偶者と子が相続人の場合
配偶者の相続分:2分の1 子の相続分:2分の1
子の相続分の2分の1とは,数人の子がいる場合には,2分の1を数人の子で分け
ることになります。
そのため,Aが死亡し,配偶者Bと子CとDがいるときは,それぞれの相続分は次
のようになります。
B=2分の1(4分の2)
C=2分の1×2分の1=4分の1
D=2分の1×2分の1=4分の1
イ 配偶者と直系尊属
配偶者の相続分:3分の2 直系尊属の相続分:3分の1
直系尊属が複数いる場合には,複数の子が相続人となるときと同じように,3分の
1を複数の直系尊属で等しい割合で分けることになります。
ウ 配偶者と兄弟姉妹
配偶者の相続分:4分の3 兄弟姉妹の相続分:4分の1
兄弟姉妹が複数いる場合には,これまでと同じです。
遺言または民法の規定によって相続分が定められたときでも,相続人全員の遺産分割協議によって各人の相続分を変更することができます。
この遺産分割協議には相続人全員が参加しなければなりません。一人でも相続人が参加していないときは,その遺産分割協議は無効です。
ただし,遺産分割協議の対象となるのは積極財産,言い換えればプラスの財産だけです。マイナスの財産である債務は遺産分割の対象となりません。
これは,債務について遺産分割を認めると,債権者に損害を与えようと,資産が全くない相続人に債務を集中させるといったことが考えられるからです。
債務は相続分に従って承継されることになります。
たとえば,金銭債務であれば,各相続人が相続分の割合で承継することになります。
なお,債務が遺産分割の対象とならないのは債権者を保護するためですから,債権者が承諾すれば,遺産分割協議によって相続人の一人に債務を集中させることも可能です。
相続人は,被相続人の死亡と同時に,その財産上の権利義務を承継します。
しかし,遺産が債務だけ,あるいは自分は財産を相続せず,被相続人の事業を引き継ぐ他の相続人に相続させたいなど,相続人が相続による財産の承継を拒否したいときもあります。
このような場合には,“相続放棄”が認められています。
相続放棄は,各相続人が単独で行うことができます。
ただし,相続を放棄するためには,自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に,家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
家庭裁判所は,被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
被相続人が死亡した場所や相続財産の所在地は基準となりません。
なお,3カ月の期間は,家庭裁判所が延長することも認められています。
ただし,相続人が相続財産を勝手に処分した場合などは,単純承認をしたものとみなされてしまい(民法921条),上記の3カ月以内でも,相続放棄をすることはできなくなります。
この他に,相続財産の限度で相続債務を弁済する限定承認という制度もありますが,これは相続人全員で行わなければならず,また,財産目録を作成しなければならないなど手続きが複雑なため,あまり利用されていないといわれています。